困倦之眼
クラブ歌手のキムは黒人のスプーンと出逢った。翌日、彼女は「私、クロと寝たのよ」と告げ、市来の部屋を出て行った。市来はキムが唄っている基地のクラブのバンド仲間で、一年間同棲していたのだ。キムは10年前、この横須賀の町で自分を拾ってくれたマリア姉さんを訪ねた。マリアは黒人としか寝ない女だった。数日後、外国人相手のスーパーでスプーンと再会したキムは、モーテルで再び熱い瞬間を過ごした。だが、二人の乗ったスプーンの自転車が衝突事故を起こし、スプーンの消息はわからなくなった。キムは新しく借りた部屋で、スプーンの猫オズボーンと彼を待った。スプーンは脱走兵となってキムの前に現われた。二人の熱病のような熱い日々が始まった。ある日、脱走中だというウィスパーが、「スプーンとは薬を売っている仲間だが入れる筈の金を持って来ない」と告げに来る。キムは入れ替わりに帰って来たスプーンに、「薬の売人なんて危険なことはやめて」と懇願する。カッとなってキムを欧りつけたスプーンは、「もう終わりだな」とつぶやいて出て行った。その夜、キムはクラブで唄えなくなってしまう。そして、心配した市来の優しい言葉に誘われてベッドを共にする。だが、もう市来の愛撫に酔うことはできなかった。部屋に戻るとスプーンがおり、抱き合う二人。肉体で始まった愛は精神の愛へと到達していくが、蜜月のような日々は長くは続かなかった。キムはマリアとベッドを共にしているスプーンの姿を発見する。しかし、キムはスプーンと離れることはできない。二人の日々はスパイ容疑でのスプーンの逮捕という形で終わった。